ロボラ南部アフリカの婚資
南アフリカなど南部アフリカで、結婚にあたって花婿の側が花嫁の家族に牛や現金を贈る習わしです。両家の話し合いと贈りものの交換、植民地時代の変化、今の法律での位置づけや金額をめぐる議論までを紹介します。
南アフリカ・クワズール・ナタール州など植民地時代より前〜結婚今も行われている
概要
ロボラ(lobola)は、南アフリカをはじめとする南部アフリカの多くの社会で受け継がれてきた、結婚にまつわる習わしです。花婿やその家族が、花嫁の家族に牛や現金を贈ります。ズールー語ではイロボロ(ilobolo)と呼ばれます。
南アフリカの「慣習婚の承認に関する法律」は、この贈りものを「ロボロ」と書き、ボガディ、ボハリ、イカジ、マガディなど、いくつもの呼び名を並べています。
結婚のときに花婿の側から花嫁の側へ贈られる財を、人類学では「婚資」と呼びます。とくにアフリカに多いとされます。
歴史
牛が行き来する
ズールー語を話す人々の地域を調べた研究によると、ロボラの中心は、花婿の家族から花嫁の家族へ贈る、たくさんの牛でした。花嫁が夫の家へ移るのと逆向きに、牛が花嫁の家へ移ります。そうして2つの家族が結ばれると考えられてきました。牛は、娘を育てた家族への感謝のしるしともされます。
牛は一度に渡しきるものではなく、長い年月をかけて少しずつ贈られることもありました。その間に、両家は行き来を重ね、互いをよく知っていきます。ズールー語など、ングニ系の言葉には「ロボラは終わらない」という言い回しがあるといいます。
植民地の法律と「10頭」
19世紀、今のクワズール・ナタール州にあたるナタール植民地では、植民地の役所がロボラに上限を設けました。ふつうの人の結婚では牛10頭と、花嫁の母への1頭までとしたのです。この上限は、やがて花嫁の家族が求める数の「相場」になりました。クワズール・ナタール州では、今も「10頭と1頭」をロボラの本来の形と考える人が多いとされます。その数が植民地の法律から来たことは、忘れられているといいます。
植民地時代に、税を現金で納めることが求められ、出稼ぎで賃金を得る男性が増えると、ロボラもしだいに現金で払われるようになりました。払う人も、花婿の父から花婿本人へと移っていったとされます。
祝い方・祭りの流れ
進め方は地域や家族によって違います。クワズール・ナタール州の村での研究は、次のような流れを伝えています。
朝早く、花婿の側の交渉役たちが、贈りものを持って花嫁の家の門に着きます。「よいご縁をお願いします」と声をかけ、家に招き入れられると、花嫁の父や親族の男性との話し合いが始まります。
話がまとまると、交渉役は花婿のもとへ戻り、花婿が牛を集めて贈ります。今は「ポケットに入った牛」、つまり現金で払うことが多くなりましたが、金額は牛の頭数で話されます。
ロボラの始まりには花嫁の家で、終わりには花婿の家で、祝いの集まりが開かれます。両家は、毛布やシャツ、エプロンなどを、相手の親族一人ひとりに贈り合います。20世紀には、花嫁の家族が受け取ったロボラの一部で、新しい夫婦のためにベッドやたんすを用意することも広まりました。
今の暮らしの中で
法律での位置づけ
南アフリカでは、1998年に「慣習婚の承認に関する法律」ができ、2000年11月15日に施行されました。この法律は、二人がともに18歳を超え、慣習法による結婚に同意し、結婚が慣習法に従って話し合われ、結ばれるか祝われることを、慣習婚が有効になる条件としています。妻が夫と対等の立場をもつことも定めています。ロボラを払い終えることは、条文でははっきり条件にされていません。ただ、「慣習法に従って話し合われる」という条件にロボラの取り決めが含まれる、と考える専門家もいます。
2019年、南アフリカの最高控訴裁判所は、ロボラの一部が払われていなかったうえ、花嫁を引き渡す儀礼もなかった夫婦の慣習婚を、有効と認めました。判決は、慣習法は時代とともに変わる柔軟なものだとしています。
金額をめぐる議論
ズールーの人々についての2014年の研究では、聞き取りに応じた人の多くが、ロボラの負担を結婚の妨げと考えていました。それでも、ロボラはズールーの伝統として広く大切にされ、結婚に欠かせないものとされていました。研究は、この2つの思いのずれが、結婚の少なさにつながっているとしています。
花嫁の家族が金額をつり上げ、商売のようになっているという批判もあります。一部の女性からは、夫が「払ったのだから」と考え、妻への暴力や支配を正当化することにつながる、という声も聞かれました。一方で、夫となる人の覚悟を示すものとして、ロボラを強く支持する若い女性も多いと報告されています。家族の中で、母親や娘が金額を下げるよう父親に働きかけることもあるといいます。
よくある誤解・豆知識
「花嫁を買う」ものではないと説明されます。 ヨーロッパの宣教師は、かつて婚資を人身売買のように見て「花嫁代価」と呼びました。しかし世界大百科事典は、女性が商品として取引されるわけではないとし、日本大百科全書もこの呼び名を適切でないとしています。
金額の目安は地域で違います。 2010年代の初めのクワズール・ナタール州のある村では、ロボラ全体で1万5,000〜1万7,000ランドほどが目安と語られていました。
参考文献
- Recognition of Customary Marriages Act 120 of 1998(南アフリカ司法・憲法発展省) https://www.justice.gov.za/legislation/acts/1998-120.pdf
- Supreme Court of Appeal of South Africa「Mbungela and Another v Mkabi and Others (820/2018) [2019] ZASCA 134」2019年9月30日 https://www.supremecourtofappeal.org.za/index.php/judgements/send/21-judgments-2019/1698-mbungela-another-v-mkabi-others-820-2018-2019-zasca-134-30-september-2019
- Michael W. Yarbrough「Very Long Engagements: The Persistent Authority of Bridewealth in a Post-Apartheid South African Community」Law & Social Inquiry 43(3), 2018, pp. 647–677 https://doi.org/10.1111/lsi.12275
- Dorrit Posel, Stephanie Rudwick「Marriage and Bridewealth (Ilobolo) in Contemporary Zulu Society」African Studies Review 57(2), 2014, pp. 51–72 https://doi.org/10.1017/asr.2014.47
- Stephanie Rudwick, Dorrit Posel「Zulu bridewealth (ilobolo) and womanhood in South Africa」Social Dynamics 41(2), 2015, pp. 289–306(要旨)
- コトバンク「婚資」(日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ほか) https://kotobank.jp/word/婚資
- コトバンク「花嫁代償」(改訂新版 世界大百科事典・日本大百科全書ほか) https://kotobank.jp/word/花嫁代償
最終更新:2026-10-19
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