ジェリ西アフリカの語り部の学び
西アフリカのマンデの人々の社会で、歴史や家の系譜を歌い語ってきたジェリ(グリオ)。その技と知識は、ジェリの家の子どもが祖父母や親、親せきから受け継いできました。今のマリの子どもたちの学びと、その変化を紹介します。
マリ・ギニア・セネガル・ガンビアなど(マンデの人々)13世紀のマリ帝国のころからと伝わる〜(文字の記録は14世紀から)見習い・弟子入り今も続いている
概要
ジェリは、西アフリカのマンデの人々の社会で、歌と語りによって歴史や家の系譜を伝えてきた人々です。地域や言葉によって「ジャリ」とも呼ばれます。英語やフランス語では「グリオ」と呼ばれます。
マンデの人々は、近い言葉を話す人々の集まりです。マリやギニアのマリンケ(マニンカ)、マリのバマナ(バンバラ)、ガンビアやセネガルのマンディンカなどがいます。百科事典は、ジェリが今は結婚式や名づけの式、公の祝いの場で、コラ(弦をはじく楽器)やバラフォン(木琴)の伴奏で歌うことが多いと説明しています。
ジェリの技と知識は、ジェリの家に生まれた人が受け継ぐものとされてきました。マンデの社会には、鍛冶のように、生まれた家で受け継がれる職があり、ジェリもその一つです。音楽学者ルーシー・デュランによれば、音楽をするジェリの家では、子どもにジェリの芸を身につけさせることを務めと考えています。
歴史
ジェリの語りの中心にあるのが、13世紀にマリ帝国を築いたとされるスンジャタ(スンディアタ)・ケイタの叙事詩です。植民地になる前、ジェリは王や戦士に仕える助言者として宮廷にいたとされます。ジェリと、歌でたたえられる家との結びつきは、今も続いています。
文字の記録では、1350年代にマリ王国を訪ねた旅行家イブン・バットゥータが、王の前の場面を書き残しています。羽の衣装の詩人たちが、王に先の王たちを思い出させ、のちの世まで語り継がれる行いを求めた、というものです。この場面を、ジェリにつながる古い記録とみる研究があります。
ギニアのニャガソラ村には、スンジャタの時代のものと伝わる木琴「ソソ・バラ」が残ります。守ってきたのは、ジェリのクヤテの一族です。この楽器をめぐる文化は、2008年にユネスコの無形文化遺産の一覧に載りました。
学びの風景
家の中で、まねて覚える
学び方は、学校の授業とは違います。デュランによれば、演奏の技や歌のレパートリーは、大家族の中で、くり返しとまねを通して自然に身についていくものです。ふつう女の子は歌い手に、男の子はコラやバラフォン、ンゴニ(弦の楽器)などの弾き手になります。
デュランたちは2009〜2012年に、マリ南部の4つのジェリの家の子どもたちを撮影しました。子どもの音楽の学びが記録されたのは、これが初めてだといいます。12歳になったばかりのロキア・クヤテは、祖父で歌手のカセ・マディ・ジャバテの歌い方を学ぼうと、にぎやかな結婚式で歌っていました。7歳のサランと5歳のアミの姉妹は、祖母で名高い歌い手のバコ・ダニョンから歌を教わっていました。
1日の中の学び
10歳のサリフ・ジャバテは、コラの名手が続く家に生まれました。父は演奏旅行で家を空けることが多く、セネガル出身の親せきが教え役を任されていました。サリフは学校が忙しく、練習の時間をとるのに苦労していましたが、学校の休みの間に大きく上達したといいます。
村の暮らしの中にも、学びの場があります。バコ・ダニョンの生まれた村では、雨季に畑で働く人を励ます「サンセネ」と呼ばれる歌が歌われます。小さな子どもが歌を覚える、おもな場の一つです。ソソ・バラを守る一族では、一族の長が、7歳ごろからの子どもにバラフォンを教えるとされます。
今の暮らしの中で
ジェリの歌は、今も結婚式や名づけの式に欠かせません。テレビやラジオも演奏の場になりました。マリの首都バマコでは、録音や録画をまねて音楽を覚える子どもも多いといいます。一方で、2011年ごろの記述では、国の音楽学校は2つだけで、公立学校の授業に音楽はありませんでした。
ユネスコは、ソソ・バラの学びについて、村から町へ人が移り、学ぶ子どもが減っていることを課題に挙げています。
マリのカンガバでは、7年ごとに「カマブロン」という建物の屋根をふき替える行事があります。近くのケラ村のジャバテの家のジェリたちが、マンデの土地の歴史を語ります。この行事は2009年に、ユネスコの無形文化遺産の一覧に載りました。
新しい学びの形もあります。ガンビアのジェリの家に生まれたソナ・ジョバーテは、男性だけが弾くものとされてきたコラを弾き、世界で演奏しています。2015年には、ガンビアに学校を開きました。ふつうの教科に加えて、コラやバラフォン、踊りや太鼓を、男女や家の生まれにかかわらず教えています。
よくある誤解・豆知識
歌うのは昔の王の話だけではありません。 百科事典は、ジェリが、仕える一族の系譜や、その家の人の生い立ちを歌ってきたと説明しています。歌には、人や家をたたえる歌と、歴史の歌があります。
似た役目の人は、ほかの民族にもいます。 セネガルなどのウォロフの人々の「ゲウェル」、フルベの人々の「ガウロ」も、歌と楽器で語る人々です。「ジェリ」は、マンデの言葉での呼び名です。
参考文献
- Lucy Durán, Nicolas Magriel, Geoff Baker「Mande music in Mali and Guinea」Growing into Music(英国の芸術・人文科学研究会議〈AHRC〉の助成による研究プロジェクト)、2011年 https://growingintomusic.co.uk/mali-and-guinea-music-of/mali-and-guinea-the-mande/
- 同「Films of Growing into Music in Mali and Guinea」 https://growingintomusic.co.uk/mali-and-guinea-music-of/films-of-growing-into-music.html
- 同「Salif Diabate (born 2000)」 https://growingintomusic.co.uk/mali-and-guinea-music-of/participants-in-mali-and/salif-diabbate-born-2000.html
- UNESCO Intangible Cultural Heritage「Cultural space of Sosso-Bala」 https://ich.unesco.org/en/RL/cultural-space-of-sosso-bala-00009
- UNESCO Intangible Cultural Heritage「Septennial re-roofing ceremony of the Kamablon, sacred house of Kangaba」 https://ich.unesco.org/en/RL/septennial-re-roofing-ceremony-of-the-kamablon-sacred-house-of-kangaba-00190
- Università degli Studi di Padova, Echos: Sound Ecosystems in Travelogues「Travels of Ibn Baṭṭūṭa」(文:Andrea Pintimalli) https://echos.beniculturali.unipd.it/events/2041
- コトバンク「グリオ」(百科事典マイペディア・世界大百科事典) https://kotobank.jp/word/グリオ
- コトバンク「マリンケ」(日本大百科全書・百科事典マイペディア) https://kotobank.jp/word/マリンケ
- コトバンク「バンバラ」(日本大百科全書・百科事典マイペディア) https://kotobank.jp/word/バンバラ
- CBS News 60 Minutes(Lesley Stahl)「Sona Jobarteh: Expanding the unique musical tradition of West Africa’s kora」2022年12月放送、2023年8月6日更新 https://www.cbsnews.com/news/sona-jobarteh-kora-60-minutes
- University of Chicago Press「Mande Music」(Eric Charry) https://chicagodistributioncenter.org/ucp/books/book/chicago/M/bo3629899.html
最終更新:2026-10-19
このページは、世界の子どもの学びの習わしを、歴史と文化として紹介するものです。教育の方法の良し悪しを比べたり、すすめたりするものではありません。