徒弟制度中世ヨーロッパの職人の修業
中世ヨーロッパの町で、子どもや若者が親方の家に住みこみ、何年もかけて手仕事を身につけた仕組み。徒弟・職人・親方の3つの段階、契約書に書かれた約束、今も続く遍歴の旅まで、その歴史と学びの風景を紹介します。
ヨーロッパの都市(ロンドン、ドイツ語圏、フランスなど)中世(12〜13世紀ごろ)〜見習い・弟子入り昔の学び
概要
徒弟制度は、中世ヨーロッパの町で、手仕事の技を伝えてきた仕組みです。子どもや若者が親方の家に住みこみ、決められた年数のあいだ働きながら仕事を覚えました。
手工業の世界には、「徒弟(見習い)」「職人」「親方」の3つの段階がありました。スイスの歴史事典によると、この区分は中世の中ごろから記録で確かめられます。修業の年数や、職人の旅の長さ、段階が上がるときの儀式などは、職業ごとの組合(英語ではギルド、ドイツ語ではツンフト)が決めていました。
歴史
ロンドンの記録
14世紀初めのロンドンの市の記録には、弟子入りの約束が数多く書き留められています。1310年には、ジョン・ル・テイユールという若者が、肉屋のシーマン・ド・ノートンのもとに、「この復活祭から7年」の約束で弟子入りしました。同じころ、ろうそく屋に7年の約束で入った若者の記録もあります。ロンドンでは、修業を終えると市の「自由民」になる道が開け、町で商いをする権利につながりました。
スウォンジー大学の研究は、1250〜1500年のイングランドに残る82通の弟子入りの契約書を調べています。弟子を養うには食べものや住まいの費用がかかり、弟子は決して「安い働き手」ではなかったと結論づけています。親方と弟子が、家族のように深く結びついていた例も見つかっています。
スイスとドイツ語圏の徒弟と職人
スイスの歴史事典によると、スイスの町の徒弟の修業は、多くが3〜4年でした。徒弟の親は親方に「授業料」を払い、徒弟は親方の家で、家族の子どものように暮らしました。修業の終わりには職人になるための試験があり、合格すると職人の証書を受け取りました。この節目は、にぎやかな祝いの場になることもありました。
職人になると、町から町へと渡り歩いて働く旅に出ました。この旅は14世紀から記録があり、16世紀には期間が延ばされ、決まりとして求められるようになりました。親方になるには、職業によっては、腕前を示す「親方作品」を作る必要がありました。
後期中世のニュルンベルクやバーゼルなどの町では、職人と住みこみの女性の働き手が、人口の約4分の1を占めていました。1人の親方が雇う職人は、多くても1〜2人だったといいます。
学びの風景
徒弟の1日は、親方の家の暮らしと仕事場がひと続きでした。寝る所も食事も親方の家です。スイスの歴史事典は、徒弟は親方やほかの職人の手仕事をまねて覚え、仕事とその習わしの中に少しずつ入っていったと説明しています。
弟子入りのときに交わす契約書には、両方の約束が書かれました。イングランドに残る契約書(多くは16〜19世紀のもの)では、親方は技を教え、食べもの・飲みもの・寝る所などを与えると約束しています。弟子は、主人に忠実に仕え、主人の秘密を守ることを約束しました。カードやさいころの賭けごとをしない、酒場や芝居小屋に行かない、修業の間は結婚しない、許しなく仕事を離れない、といった決まりもよく見られます。
ヘリフォードシャーの記録には、手袋職人のもとに入った弟子の契約書が残っています。親方は「手袋職人の技と仕事」を教え、食事と住まいを与えます。服は弟子の父が用意する約束でした。
今の暮らしの中で
職人の旅は、形を変えて今も続いています。ドイツ語圏では「ヴァルツ(Walz)」と呼ばれ、2014年にドイツの無形文化遺産の一覧に加えられました。主に建築の仕事の職人が、伝統の作業着を着て旅をします。参加するのは、ふつう30歳未満で、結婚しておらず、借金のない人です。旅の間は、故郷の町から50km以内に近づかないのが決まりです。3年と1日のあいだ家に戻らないことを求める職人の団体もあります。2025年の時点で、ドイツ語圏で旅をしている人は約450人とされます。
フランスの職人の組合「コンパニョナージュ」は、2010年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。石、木、金属、革、布、食べものの仕事の技を、働きながら伝える仕組みです。16歳以上の人が参加でき、修業は平均で5年です。フランス各地や国外の町を回って学ぶ「トゥール・ド・フランス」の期間があります。登録のときには、約4万5000人が加わっていました。
ロンドンでは今も、修業を終えて職業の組合の一員となった人が、市の自由民になる道が残っています。
よくある誤解・豆知識
女性を受け入れる職人の団体もあります。 ヴァルツの団体の多くは男性だけでしたが、1970〜80年代にできた2つの団体は、女性も受け入れています。
旅は「職人の大学」と呼ばれました。 ドイツの政治家ルドルフ・ヴィッセルは、職人の旅の年月を「かつての手工業の大学」と表しました。
徒弟の修業の年数は、土地と時代でさまざまでした。 ロンドンでは7年の約束が多く見られます。一方、スイスの歴史事典は、スイスでは3〜4年が多かったと説明しています。
参考文献
- Katharina Simon-Muscheid「Gesellen」Historisches Lexikon der Schweiz(スイス歴史事典) https://hls-dhs-dss.ch/articles/016371
- Katharina Simon-Muscheid「Meister」Historisches Lexikon der Schweiz https://hls-dhs-dss.ch/de/articles/016372/
- 「Lehre」Historisches Lexikon der Schweiz https://hls-dhs-dss.ch/de/articles/027827/
- Reginald R. Sharpe 編『Calendar of Letter-Books of the City of London: D, 1309-1314』1902年(British History Online) https://www.british-history.ac.uk/london-letter-books/vold/pp106-134
- Rhiannon Sandy「Apprenticeship Indentures and Apprentices in Medieval England, 1250–1500」博士論文、スウォンジー大学、2022年 https://cronfa.swansea.ac.uk/Record/cronfa59094
- The London Archives(ロンドン首都文書館)の弟子入り契約書の資料群(ACC/0097)の解説、AIM25 https://atom.aim25.com/index.php/apprenticeship-3
- Herefordshire Council「Apprenticeships」Herefordshire Through Time https://htt.herefordshire.gov.uk/herefordshires-past/the-post-medieval-period/herefordshire-life/tudor-education-and-apprenticeship/apprenticeships
- City of London Corporation「Freedom of the City of London」 https://www.cityoflondon.gov.uk/about-us/law-historic-governance/freedom-of-the-city
- Deutsche UNESCO-Kommission「Handwerksgesellenwanderschaft Walz」 https://www.unesco.de/staette/handwerksgesellenwanderschaft-walz/
- Tanya Rothe, Anette Kiefer「Auf der Walz sein」Planet Wissen(WDR)、2025年3月13日更新 https://www.planet-wissen.de/gesellschaft/arbeit/handwerk/auf-der-walz-sein-100.html
- UNESCO Intangible Cultural Heritage「Compagnonnage, network for on-the-job transmission of knowledge and identities」 https://ich.unesco.org/en/RL/compagnonnage-network-for-on-the-job-transmission-of-knowledge-and-identities-00441
- Musée du Compagnonnage(トゥール) https://www.museecompagnonnage.fr/accueil
最終更新:2026-10-17
このページは、世界の子どもの学びの習わしを、歴史と文化として紹介するものです。教育の方法の良し悪しを比べたり、すすめたりするものではありません。