タナカミャンマーの樹皮の化粧
ミャンマーで、タナカの木を石の板の上で水とすりおろし、顔や腕に塗る習わし。頬に丸や葉の形を描く人も多く、女性も男性も子どもも使います。その歴史と、暮らしの中での意味を紹介します。
ミャンマー中部の乾燥地帯12世紀ごろ〜(もっと古いとする説も)肌の手入れ今も続いている
概要
タナカは、ミャンマーで顔などに塗られている、木をすりおろした淡い黄色の練り物です。タナカの木の幹や枝を、「チャウッ・ピン」と呼ばれる丸い石の板の上で、水と一緒にすりおろして作ります。木はミカン科の仲間で、学名はリモニア・アシディッシマ(Limonia acidissima)やナリンギ・クレヌラタ(Naringi crenulata)などと書かれます。
町を歩くと、頬に丸く塗った人や、葉の形を描いた人によく出会います。女性や子どもだけでなく、男性が塗ることも珍しくありません。仏教徒もイスラム教徒も、さまざまな民族の人が使っています。巻きスカートのロンジーと並んで、ミャンマーの暮らしを表すものとして紹介されることの多い品です。
歴史
いつから使われてきたかは、はっきりしません。2000年ほど前、ピュー人の都タイェーキッタヤー(シュリー・クシェートラ)の時代にさかのぼるという説明もあります。ミャンマーがユネスコに出した資料では、使われていたことを示す考古学の証拠は12世紀ごろからとされます。11世紀からのバガンの寺院の壁画に、タナカを塗った姿が描かれているとも伝えられます。
文字の記録では、14世紀にハンタワディ(今のバゴー)を治めたラーザダリット王の妃が詠んだ詩に出てくるのが、早い例とされます。15〜16世紀の僧で詩人のシン・マハー・ラッタサーラの作品にも登場すると伝わります。
王族もタナカを使っていたとされます。16世紀のバインナウン王の娘、ヤーザダトゥ・カラヤー王女が使った石の板が、1930年の地震で崩れたバゴーのシュエモードー・パゴダの跡から見つかったという話も伝わっています。
作り方・使い方
材料は、乾燥地帯で育ったタナカの木を、手で持てる長さに切ったものです。市場では丸太や短い枝のまま売られています。
家では、石の板に少し水をたらし、木の切り口を押し当てて、円を描くようにすりおろします。すると、薄い黄色のとろりとした液ができます。これを指や細い棒で、頬・額・鼻すじ・首・腕などに塗ります。乾くと、肌の上に淡い黄色の膜が残ります。
塗り方は人それぞれです。顔全体に薄くのばす人もいれば、頬に丸を描いたり、葉や花の形にしたりする人もいます。朝の水浴びのあとや、出かける前、寝る前に塗る習慣があるとされます。
タナカは、家族の中で受け継がれてきた習わしです。ユネスコに出された資料は、大人が子どもに塗りながら、作法や大切にすべきことを教える時間にもなってきたと紹介しています。また、仏像を清めるときなど、仏教の行事で使われることもあるとされます。
今の暮らしの中で
主な産地は、中部の乾燥地帯です。ザガイン地域のシュエボー、マグウェ地域のシンマタウンのものがよく知られ、産地の名前で呼び分けられています。日本貿易振興機構(ジェトロ)の2017年の報告では、バガン近くのニャウンウーやパコックも大きな産地とされ、中部の町ピイに大きな卸売市場があると紹介されています。木は根元に近い部分ほど高く取り引きされるそうです。
今は、すりおろす手間のいらない粉やクリームなどの製品も多く売られています。正月の水かけ祭り(ティンジャン)のころには、タナカをすりおろす腕前を競う催しが開かれることもあります。
ミャンマーでは、暦の11番目の月、タボードウェ月の満月の日が「タナカの日」とされています。国は「タナカの文化」をユネスコの無形文化遺産に申請しています。2021年の審査では、説明が足りないとして登録が見送られ、出し直しが求められました。その後、2025年に改めて申請する準備が進められていると報じられています。
よくある誤解・豆知識
日本の名字とは関係ありません。 ミャンマー語の発音を日本語で書いたもので、英語では thanaka や thanakha と書かれます。
塗っていることが見えるのが特徴です。 タナカは、塗った跡をはっきり残して使われます。頬の丸や葉の形は、身だしなみの一つとして受け止められてきました。
1種類の木だけを指すとは限りません。 タナカと呼ばれる木には近い仲間がいくつか含まれるとされ、資料によって学名の書き方が違います。
石の板も大切な道具です。 チャウッ・ピンは、ふちに水を受ける浅い溝がある丸い石の板です。家ごとに長く使われ、タナカと一緒に受け継がれてきました。
参考文献
- UNESCO Intangible Cultural Heritage「Decision of the Intergovernmental Committee: 16.COM 8.B.27(Practice of Thanakha culture in Myanmar)」 https://ich.unesco.org/en/decisions/16.COM/8.B.27
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所「ミャンマーの美容品兼医薬品「タナカ」」地域・分析レポート、2017年11月22日 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2017/530ce5990a21691f.html
- Paul Salopek「Tree of Gifts」National Geographic Society, Out of Eden Walk、2020年9月2日 https://outofedenwalk.nationalgeographic.org/2020-09-tree-gifts/
- Associated Press「Myanmar bids to put traditional thanakha face powder on UN heritage list to boost cultural profile」2025年2月12日(Northwest Asian Weekly 掲載) https://nwasianweekly.com/2025/02/myanmar-bids-to-put-traditional-thanakha-face-powder-on-un-heritage-list-to-boost-cultural-profile/
- Comboni Missionaries Ireland「Myanmar: Thanaka, the Secret of Beauty」2016年7月1日 https://combonimissionaries.ie/2016/07/01/myanmar-thanaka-the-secret-of-beauty/
- Wikipedia「Thanaka」 https://en.wikipedia.org/wiki/Thanaka
最終更新:2026-10-11
このページは、世界の装いと美容の品を、歴史と文化として紹介するものです。医療上の効果や、美容上の効果を保証するものではありません。肌に合わないときは使用をやめ、気になることは医師や薬剤師に相談してください。民族や信仰にかかわる装いは、その意味を尊重して紹介しています。