ローズオイルバラの谷で蒸留される香り
ブルガリア中部の「バラの谷」で、ダマスクローズの花を蒸留して作られる香りの油です。オスマン帝国の時代に始まったとされる栽培と蒸留の歴史、カザンラクのバラ祭りと博物館を紹介します。
ブルガリア・カザンラク周辺(バラの谷)17世紀〜香り今も続いている
概要
ローズオイルは、バラの花に含まれる香りの成分を、水蒸気で蒸留して取り出した油です。英語では「ローズオットー」「アター・オブ・ローズ」とも呼ばれます。
代表的な産地が、ブルガリア中部のカザンラクを中心とする谷です。北のバルカン山脈(スタラ・プラニナ)と南のスレドナ・ゴラ山地にはさまれ、「バラの谷」と呼ばれています。ここで育てられているのは、ダマスクローズ(Rosa damascena)という香りの強いピンクのバラです。
ブルガリアの人にとって、バラは国を表す花の一つです。ここで作られた油は、主に香水や化粧品の原料として、何百年も前から世界に送り出されてきました。
歴史
ダマスクローズは、オスマン帝国の時代、17世紀の初めごろにトルコ人によってブルガリアへ持ち込まれたとされます。最初に植えられたのは北西部のベルコヴィツァのあたりだったという説もあります。やがてバラは、土と気候がよく合ったカザンラクの谷で、広く育てられるようになりました。
1650年ごろには、すでにまとまった量の油が作られていたという記録があるとされます。1740年にはフランスの商社が初めてブルガリアのローズオイルを輸出したと伝わり、その後もフランスの香水づくりで好まれる原料になりました。
1837年にこの地を訪れたプロイセンの軍人モルトケは、旅行記でカザンラクの一帯を「バラの谷」と呼んだと伝わります。1870〜1875年には、ヨーロッパの市場で約1,650kgのローズオイルが売られ、そのうち850kgがカザンラク産だったとされます。1890年ごろまでは「ムスカル」(約4.8g)という単位で量られていました。油は商家ごとに形の違う容器に入れられ、割れないようにフェルトを敷いた木箱に詰めて運ばれました。
2014年9月、「ブルガリアのローズオイル(Bulgarsko rozovo maslo)」は、EU の地理的表示(PGI)に登録されました。
作り方・使い方
花を摘むのは5月から6月にかけてです。朝露の残る早朝に、一つずつ手で摘み取ります。花は傷みやすいため、摘んだらすぐに村の蒸留所へ運ばれます。地理的表示の決まりでは、摘んでから10〜15時間のうちに加工することとされています。
昔ながらの方法では、花と水を釜に入れて熱し、出てきた湯気を冷やして集めます。1回目の蒸留でできるのは、香りを含んだ水です。この水をもう一度蒸留すると、ようやく油が分かれて出てきます。1kgの油を得るには、約3,500kgの花が必要とされます。
蒸留の途中でできる水は「ローズウォーター」として売られ、これも香りの水として使われてきました。花びらは、ジャムやリキュールなどの食べ物にも使われています。
今の暮らしの中で
カザンラクでは、毎年6月初めの週末を中心に「バラ祭り」が開かれます。1903年に町の人びとが始めたとされ、120年以上続いています。早朝のバラ摘み、蒸留の実演、民族舞踊、町を練り歩くパレード、そして「バラの女王」を選ぶ催しなどがあります。
町の「バラの博物館」は、油をとるためのバラを専門に扱う、世界でもめずらしい博物館です。1967年の小さな展示から始まり、1969年に独立した博物館になりました。2016年には、ロザリウム公園の中に新しい建物ができました。
谷では今もバラが育てられ、カルロヴォなど周りの町にも畑と蒸留所があります。ブルガリアは、世界の主なローズオイルの産地の一つです。
よくある誤解・豆知識
「ローズオイル」と呼ばれる品はいくつもあります。 ここで紹介した花の精油のほかに、野バラの実の種からしぼる「ローズヒップオイル」や、植物の油にバラの花をひたしたものもあります。原料も作り方も別のものです。
精油は香りの成分がとても濃い液体です。 ローズオイルには、シトロネロールやゲラニオールなどが含まれます。これらは EU で、かぶれのもとになりうる香料として、化粧品に表示が求められる成分です。また日本では、精油の多くが化粧品ではなく雑貨として売られています。
バラの谷には古代の遺跡もあります。 カザンラクには紀元前4世紀ごろのトラキア人の墓があり、1979年にユネスコの世界遺産に登録されました。
参考文献
- Visit Bulgaria「Rose Museum, Kazanlak」 https://visitbulgaria.com/rose-museum-kazanlak/
- The Sofia Globe「Museum of the Rose opens in Bulgaria’s Kazanluk」(2016年6月5日) https://sofiaglobe.com/2016/06/05/museum-of-the-rose-opens-in-bulgarias-kazanluk/
- Commission Implementing Regulation (EU) No 1020/2014(Bulgarsko rozovo maslo, PGI) https://www.boe.es/doue/2014/283/L00031-00031.pdf
- BTA(ブルガリア通信)「Sept. 25, 2014: European Commission Approves “Bulgarsko Rozovo Maslo” as New Protected Geographical Indication」 https://bta.bg/en/news/748531-sept-25-2014-european-commission-approves-bulgarsko-rozovo-maslo-as-new-pro
- Стоян Влахов「Розата – царица на цветята」『Природа』2014年3号、ブルガリア科学アカデミー https://priroda.bas.bg/wp-content/uploads/2025/07/br3-2014-7.pdf
- ブルガリア観光省「“Kulata” Ethnographic Complex」 https://tourism.government.bg/en/tourist-destinations/2800/5726
- Givaudan「Rose Oil Bulgaria」 https://www.givaudan.com/print/2738681
- Regulation (EC) No 1223/2009(化粧品規則)附属書 III(表示が求められる香料成分)
最終更新:2026-10-11
このページは、世界の装いと美容の品を、歴史と文化として紹介するものです。医療上の効果や、美容上の効果を保証するものではありません。肌に合わないときは使用をやめ、気になることは医師や薬剤師に相談してください。民族や信仰にかかわる装いは、その意味を尊重して紹介しています。